科研コラム
#2 非加熱食肉製品及びナチュラルチーズに制定されたリステリア・モノサイトゲネスの規格基準について(2015年6月号)
シリーズ2回目は、2014年12月に非加熱食肉製品及びナチュラルチーズに制定されたリステリア・モノサイトゲネスの規格基準についてお話します。
☆☆「リステリア」ってどんな細菌?☆☆
リステリア・モノサイトゲネス(以下LM)は、動物の腸管内や環境中に広く分布している通性嫌気性芽胞非形成グラム陽性の短桿菌であり、一般的な食中毒菌が増殖できないような条件(4℃以下の低温や12%食塩濃度)下でも増殖できます。喫食前に加熱を要さない調理済み食品(Ready-To-Eat(RTE)食品。)で比較的長期間低温保存する食品、特に乳製品や食肉加工品などが食中毒の主な原因と言われています。健康な成人では10,000cfu/g以下であれば食中毒のリスクが低いとされていますが、高齢者や免疫機能が低下している人はより少ない菌量でも発症することがあり、髄膜炎や敗血症などの重篤な症状に陥ることがあります。妊婦の場合、流産や垂直感染により、胎児・新生児に影響が出ることがあります。
☆☆リステリア・モノサイドゲネス規格基準制定の経緯☆☆
2009年7月に、コーデックス委員会はRTE食品におけるLMの基準を、製造から販売時点までに、増殖する可能性のある食品は不検出/25g、増殖する可能性のない食品は100cfu/gを超えないことを示しました。また、コーデックスではLMの増殖は、pHが4.4未満、水分活性が0.92未満、pHが5.0未満かつ水分活性0.94未満または冷凍保存により制御できるとしています。コーデックス基準の設定を受け、厚生労働省は国際整合性、食品健康影響評価を踏まえ、非加熱食肉製品、ナチュラルチーズ(ソフト及びセミハードタイプ)に100cfu/g以下の基準値を制定しました。
また、厚生労働省は、増殖を抑える方法としてpH、水分活性、食品添加物の使用など食品の特性に合わせた様々な方法もしくは、輸送は6℃(2~4℃が望ましい。)を超えないような温度管理が重要としていますが、現在、国内の食品等事業者は不検出での管理が一般的に行われています。
☆☆試験法の制定と食肉科研の対応☆☆
LMの規格基準が100cfu/g以下とされたことによって、定量試験法が新たに示されました。食肉科研では本年1月より新たな試験法によるLMの検査を受託しています。試験法導入に当たっては繰り返し添加試験を実施した中で、使用する培地の性能の高さとともに、検査員の技能の維持向上の重要性を実感しました。
厚生労働省は、食中毒事故防止のため、LM規格基準制定に際して、食品事業者に対し必要に応じて消費期限を設定した科学的根拠を確認するよう指導されていますし、LMが増殖する可能性のある食品は、従来どおり不検出での管理または6℃以下の温度管理を求めています。
「自社の非加熱食肉製品はLMが増殖しない」ことを科学的データにより証明しようとするとき、賞味期間設定を見直そうとされるときは、微生物部(電話:03-6450-3345)にお問い合わせください。また、不検出での管理を継続する場合のLM定性検査も受け賜っていますのでどうぞご利用ください。
文責:事業統括部微生物部 中島誠人