科研コラム
#19 食品の物理的性質を反映する「テクスチャー」について(2016年11月号)
おいしさの因子は、食品の化学的性質であるフレーバー(味や香り)と、物理的性質であるテクスチャー(食感)であると言われています。今回は、食品の物理的性質を反映する「テクスチャー」についてお話します。
☆☆テクスチャーとは?☆☆
食品の分野では、「テクスチャー」とは、一般的に食べ物を口に入れて咀嚼し飲み込むまでの唇,歯,口蓋,喉などで感じる様々な食感を意味します。食品のおいしさは、五基本味と言われる「甘味」、「塩味」、「うま味」、「酸味」、「苦味」といった舌で感じる「化学的な味」だけでなく、「歯ごたえ」や「歯切れ」、「舌ざわりのよさ」、「喉ごし」など歯、舌、喉が口内の感覚で感じる「物理的な味」も重要な因子です。特に食肉、食肉加工品であるハム、ソーセージ、白飯、パンや豆腐等の固体状の食品は、物理的なおいしさが重要視される傾向にあり(図1)、その味のことを「テクスチャー」あるいは「食感」と呼んでいます。
☆☆食肉のテクスチャー(食感)☆☆
お肉を食べた時、その食感をどのように表現するでしょうか?「口の中でとろけるほど軟らかい」、「噛むと肉汁が口いっぱいに広がる」、「口の中でホロホロとほどける」、「パサパサで筋張っている」、「噛みきれないほど硬い」など、様々な表現を耳にします。一般的には、食肉は軟らかく多汁性のある食感が好まれていますが、一方で適度な歯ごたえ(弾力)や滑らかさも食肉のおいしさを決める重要な要因の一つです。
通常、食用に供される牛肉や豚肉は、熟成と呼ばれる期間を経ています。と畜後しばらく経つと、死後硬直により肉質は硬く保水性が低くなりますが、その後2~4℃でさらに貯蔵すると、筋肉中の筋原線維等の構造が弱まり、肉質は徐々に軟らかくなり保水性も回復します。熟成に必要な日数は動物の種類によって違いがあり、屠殺後、牛は約10日~2週間、豚は5~7日間、鶏は1~2日間ほど熟成することによって、ジューシーで軟らかく風味も向上します。きめ細かいサシが入った霜降り肉は、表面の脂肪の滑らかさだけでなく、筋肉内に入り込んだ脂肪により結合組織が弱くなり、加熱すると脂肪が溶け出すので、軟らかでまろやかな口あたりを感じるため好まれています。このようにテクスチャー(食感)は、食品の組織や構造とそこから生じる力学的特性と深い関わりがあります。
☆☆食感を数値化する☆☆
「食感」を測るには、テンシプレッサーという機器を用います。この機器は、人間の咀嚼動作を再現し物理的に計測を行い咀嚼感の数値化をします。
咀嚼感を主な力学的特性で表すと、「軟らかさ」、「しなやかさ」、「噛み応え」、「脆さ」となります。例えば、熟成日数の異なる食肉では、「軟らかさ」や「噛み応え」に、焼いた肉と煮た肉では、「しなやかさ」に、粗挽きハンバーグと細挽きハンバーグでは、「噛み応え」や「脆さ」(口の中でのほどけやすさ)に違いがあります。これらの特性は、テンシプレッサーで測定することによって、その食品の食感を数値化し対照食品と比較することができます。さらに、噛みしめたときの軟らかさを示す「伸展率」、ジューシーさの程度を示す「圧搾肉汁率」など物性に関連する理化学検査と組み合わせて試験することにより、食品の特徴が明確となります。
食肉科研は、テクスチャーなど物性をはじめとする肉質評価、調理条件や解凍条件が異なる食肉や食肉製品の食感の違いの検査などに幅広く対応しております。どのような検査項目を選ぶと良いかなどのご質問がございましたら、お気軽に理化学部までご相談ください。
図表1、図2はPDFをご覧ください。
文責:事業統括部理化学部 吉田由香